最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)146号 判決 1968年2月01日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告人ら代理人渡辺治湟の上告理由第一点および上告人大野代理人竹下甫、同今永博彬の上告理由第一点について。
所論乙第一号証を排斥するにつき、原審のした認定、判断は、これに対応する挙示の証拠関係に照らして十分是認することができ、その間所論の違法はない。また、当事者の申し出た証拠にして裁判所が不必要と認めたものは取り調べる必要がないから、原判決に所論の違法もない。なお、所論中には、原判決がその理由中で、右乙号証は、上告人大野においてほしいままにその記載を訂正した旨の事実を認定するに際し、「推認」の語を用いたことを非難する部分があるが、右の用語法は、裁判所が、本件のように、証拠によつて認定された間接事実を総合し経験則を適用して主要事実を認定した場合に通常用いる表現方法であつて、所論のように証明度において劣る趣旨を示すものではない。所論は、いずれも、ひつきよう、原審が適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採るを得ない。
上告人ら代理人渡辺治湟の上告理由第二点について。
所論の点に関する原判決理由(4)の後段部分は、要するに、本件土地の転貸について上告人大野が被上告人サクの承諾を得た事実のないことを示す一つの事情として、上告人大野と被上告人サクとの間に礼金等の授受が行なわれたことのない事実を確定したものであるが、原審認定のような転貸禁止の条項がある場合に転貸の承諾を求めるについて礼金等の授受が行なわれるのが通例であるかどうかは別として、礼金等の授受が行なわれなかつた事実もまた転貸について承諾を得ていないことを推認させる一つの事情たりうるものである。のみならず、転貸の承諾を得た旨の上告人らの主張に符合する上告人大野本人の供述および乙第一号証を排斥し、他に右主張を肯認するに足りる証拠はないとした原審の認定判断は、原判決理由(4)に認定された事実以外の認定事実とその余の挙示の証拠関係によつても首肯できるものであるから、所論の点に関する原判決の説示の当否はいずれにしても判決の結論に影響を及ぼすものではない。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用するに足りない。
上告人大野代理人竹下甫、同今永博彬の上告理由第二点について。
所論は、原審の裁量に属する証拠の取捨判断を非難するに帰するもので、採るを得ない
同第三点について。
土地の賃借人が賃借地の一部を賃貸人の承諾を得ないで他人に転貸したときは、特別の事情が認められないかぎり、その全部について契約を解除することを得るものと解すべきである(昭和一〇年四月二二日大審院判決・民集一四巻七号五七一頁参照)。
本件において、原審が確定した事実関係によれば、上告人大野は、被上告人サクから賃借した宅地三三〇・五七平方メートル(一〇〇坪)のうち七八・一八平方メートル(二三坪六合五勺)を上告人小野に、また、その余のうち九四・八一平方メートル(二八坪六合八勺)を訴外伊藤春雄に転貸したというのであるから、右転貸を理由として被上告人サクのした契約解除の効力を是認した原判決の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない論旨は、独自の見解に立ち、原判決を非難するものであつて、採るを得ない。
同第四点について。
原判決の確定した事実関係のもとにおいては、前示上告人大野の無断転貸行為をもつて被上告人サクに対する背信行為と認めるに足りない特段の事情は見当らない。所論は、原判決が認定せず、また、原審において主張しない事実を前提として原判決を非難するものであつて、採るを得ない。
同第五点について。
記録に表われた本件訴訟の経過に照らせば、原審の措置に所論の違法があるとは認められない。論旨は採るを得ない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 入江俊郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)